古代エジプトとボスウェリアサクラフランキンセンスとプント航海

【フランキンセンスの起源と、古代エジプトの「プント航海」という神話】

<フランキンセンス>

それは、エジプトからは遠い「プントの地」で育まれた一本の木の樹脂から始まりました。

この香りは、古代の神殿や祈りの時間を長く支えてきました。ただの芳香ではなく、人の心と神聖な世界を結ぶ、かけがえのない香りでした。そして今も変わらず。

その源をたどる旅こそが、「プント航海」として語り継がれる壮大な物語なのです。

【プントとボスウェリア・サクラ】

“神の地”と呼ばれたプントと、フランキンセンスの源泉のつながり

プント(Punt)は、古代エジプト人にとって「香りと黄金の源」。

そこはフランキンセンス(乳香樹脂)とミルラ(没薬)が自然に育つ、神々の祝福を受けた土地とされていました。

現在の地理で言えば、プントはソマリアやイエメン沿岸部、そしてマイエジプトジャパンが実際に訪れ取り寄せている「オマーン南部のドファール地方」に該当すると考えられています。

そして注目すべきは、ボスウェリア・サクラ(Boswellia sacra)という木。

この種が育つのは、オマーンとイエメンそしてソマリアの一部の過酷な岩山地帯のみ。

世界で「最も高貴で清らかな香り」を持つ、神聖なフランキンセンスの源とされています。

【フランキンセンスが世界に広まったきっかけとプント航海】

古代エジプトの儀式とミイラ作り

紀元前3000年頃の古代エジプトでは、すでにフランキンセンスは神殿での薫香や、死者のミイラ防腐、そして浄化の儀式に欠かせない聖なる香りとして使われていました。

この香りを絶やさないために、エジプトは遠く紅海を渡り、“神の地プント”に自らの船団を派遣したのです。それが、女王ハトシェプストによる「プント航海」でした。古代エジプトの壮大な「香りの旅」の記録です。

 

 

【プント航海とは】

目的は香りの交易

エジプト人がプントに求めたものは:

• フランキンセンス(乳香樹脂)

• ミルラ(没薬)

• 金、象牙、黒檀、香木、

• そして注目すべきは、乳香の「苗木」そのもの

彼らは香りを「消費物」ではなく、「大地に根付かせるもの」として捉えたのです。

 

 

【ハトシェプスト女王のプント遠征(紀元前15世紀)】

古代エジプト第18王朝の女王、ハトシェプスト(Hatshepsut)は、国家的プロジェクトとして数隻の大型船団をプントに派遣しました。

その壮大な航海の様子は、ルクソールのデル・エル・バハリ(ハトシェプスト女王葬祭殿)の壁画に今も鮮やかに描かれています。

その中には:

• プントの王と王妃

• 交易品の運搬

• そして乳香の苗木を土ごとエジプトへ持ち帰る様子までもが彫られているのです。

【プント航海の意義とは?】

1. 香りは“神への捧げもの”

フランキンセンスとミルラは、祈りの場、ミイラ作り、神殿儀式において重要な「神と人をつなぐ媒介物」でした。

2. プントは「神の地」と信じられていた

遠く離れた“聖なる香りの源”に、直接足を運ぶことで、

香りのエネルギーを自国に取り入れるという宗教的・外交的な意味合いがありました。

3. 初の“苗木輸入”の記録

香りの源である植物自体を根付かせようとした試みは、「聖なる香りを大地に根づかせる」行為そのもの。

香りを超えて、生きた木の命そのものを持ち帰ろうとした壮大な祈りの形でもあります。

エジプトに根付かせようと試みられた、乳香の苗木。

けれど、その命は本来の風と光、土地の記憶に守られて生きるもの。

聖なる香りを大地に宿そうとしたその願いは、根づくことは叶いませんでした。

(豆知識として)なぜフランキンセンスの木はエジプトに根付かなかったのか?

• ボスウェリア・サクラ(Boswellia sacra)は、非常に特殊な気候条件(乾燥と霧、岩場の水はけ、標高など)を必要とします。

• オマーンのドファール地方やイエメン南部の一部には、年間を通じて霧の多い季節風が吹くという特有の環境があり、それがこの木の生育に不可欠です。

• 一方、ナイル流域のエジプトではこのような環境はなく、自然分布には適しないようです。

【ペルシャ湾とシルクロードを通じた東西交易】

紀元前1000年頃から、フランキンセンスはアラビア半島やペルシャ湾を経由し、メソポタミア、インド、地中海、ギリシャ、ローマ帝国へと流通。

やがてその価値は金にも匹敵するものとなり、「フランキンセンス・ルート」と呼ばれる交易路が築かれるほどに。

 

【キリスト教世界での「神への捧げもの】

さらに時代が下り、フランキンセンスはイエス・キリストの誕生に際し、東方の三賢人によって贈られた「神への捧げもの」として登場します。

キリスト教世界では、「教会での祈りや浄化に用いられ、“神の臨在を感じさせる香り”」として現在まで重んじられています。

【フランキンセンス樹脂に思うこと 神の地プントからの贈りもの】

私たちが今、手にしているこの神聖なボスウェリア・サクラの樹脂

それは遠い昔、古代エジプト人がプントの地まで船を出して求めた「聖なる香り」と、まったく同じ木からもたらされたものです。

数千年の時を経てもなお、オマーンやイエメンの乾いた山の斜面に、

太陽と風を受けながら静かに生きる同じ種の木々が、今も自生しています。

私たちは、その自然に根付く“いのち”から採取された樹脂だけを扱っています。

それは、人の手ではつくれない、大地と宇宙が織りなす贈り物。

これほどの時間を越え、場所を越え、

まるで物語の中から届いたような香りを、今、手のひらに受け取ることができる。

それはもう、奇跡でしかなく。

ただただ、浪漫という言葉しか思いつかないのです。

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